中国の創世神話は、『宇宙卵』という神話の典型的な形態の1つをとります。
盤古(ばんこ)という巨人が天と地を創造する物語です。
もう1つ、日本人に馴染み深い『かぐや姫』の原点ともいえる神話、『嫦娥奔月(じょうがほんげつ)』についても紹介します。
月のウサギは餅つきをしているのではなく、実は薬を挽いているのです。
目次
1. 世界を作った巨人・盤古(ばんこ)
初め、宇宙は混沌とした卵のようでした。
宇宙の中で生まれた盤古は、1万8000年のあいだ眠り続けていました。
盤古が目覚める頃、宇宙にようやく秩序が生まれ始め、明るく清らかなものと暗く濁ったものに分離しました。
明るく清らかなものは『天』に、暗く濁ったものは『地』となりました。
目覚めた盤古は、天をその身体で支えました。
盤古の背丈は毎日1丈(約3メートル)ずつ高くなり、天と地はだんだんと離れていきました。
そして1万8000年が経ち、天と地は完全に分かたれました。
役目を終えた盤古は、完成したばかりの地に倒れ、亡くなりました。
すると、盤古の身体から、世界の様々なものが生まれました。
左目は太陽に、右目は月に、髪の毛やヒゲは満天の星になりました。
肉体は4つの極と5つの山(五岳)となりました。
4つの極とは、東・西・南・北のことです。
五岳とは、中国に実際に存在する霊峰を差し、嵩山(河南省)・泰山(山東省)・華山(陝西省)・衡山(安徽省)・恒山(河北省)のことをいいます。
さらに、盤古の血液は河川になり、汗は雨となりました。
息は風や雲に、声は雷鳴になり、産毛は草木に変わりました。
こうして世界ができあがったのです。
「盤」の字には、「わだかまる」「渦を巻く」などの意味があり、盤古の姿は人面蛇身とされることもあります。
ちなみに、人間を作り出す存在となる伏羲(ふっき)・女媧(じょか)の兄妹も、これと同じく半身が蛇とされ、お互いの尾を絡ませた姿で描かれます。
中国の神話では、蛇身はオーソドックスな神の姿なのです。
2. かぐや姫の原点・嫦娥(じょうが)
嫦娥は、弓の名手・羿(げい)の妻で、とても美しい女性でした。
あるとき、天帝の妻が10個の太陽(息子)を生みました。
息子たちは毎日交代で、1人ずつ空を駆けるのが役目でした。
ところがある日、役目に飽きてしまった息子たちが、10人一緒に空に出てしまいました。
地上はあっという間に灼熱地獄と化し、穀物は枯れ、人間は苦しみました。
困った天帝は、嫦娥の夫・羿に、息子たちを懲らしめてくれるように頼みました。
説得に行った羿でしたが、天帝の息子たちは言うことを聞きません。
仕方なく、羿は10個の太陽のうち9個を矢で撃ち落としました。
羿は人間を救った英雄になりました。
しかし、息子を9人も亡くしてしまった天帝は、羿を深く憎み、天の世界から追い出してしまいました。
羿と妻・嫦娥は地上に下りて暮らしましたが、神としての不老不死の力を失いました。
羿はある日、山に住む女神・西王母のもとを訪ね、その弓の腕を認められて不老不死の薬をもらいました。
ところがその薬は1人分しかありませんでした。
羿は薬のことを嫦娥に教えず、こっそりと隠しておきました。
それを知った嫦娥は、腹いせに不老不死の薬を全部飲んでしまいました。
羿が気づいたときには、嫦娥は月へと逃げた後でした。
月へ行った嫦娥は、夫を裏切った罪でヒキガエルになったという説もあるのですが、ここでは月のウサギにまつわる説を紹介します。
嫦娥は月の女神となり、ウサギを従えて月の館で暮らしています。
そして、月で月桂樹の木を植え、ウサギにそれを挽かせて薬を作っているといわれています。
ヒキガエルもウサギも、中国では月の模様がそう見えるとされてきました。
ウサギについては日本でも共通する認識ですね。
「美しい女性」「不老不死の薬」「女性は月に行き、男性が残される」というモチーフは、日本の『竹取物語(かぐや姫)』との共通点が見られます。
中国から神話のモチーフが伝わり、日本で形を変えた物語と推測されます。
また、残された夫・羿が、遠く離れた嫦娥を思って月にお供え物をしたことが、お月見(中秋節)の始まりともいわれています。
2007年に打ち上げられた、中国の月探査機に『嫦娥』の名前が付いています。
中国では、「月と言えば嫦娥」として、広く知られた神話といえます。