古代インドには、「乳海攪拌」という神話があります。
この神話では、太陽と月の誕生と、なぜ日食・月食が起こるのかについて語られています。
乳海攪拌は、インドの叙事詩『マハーバーラタ』にその記述があります。
目次
1. 『マハーバーラタ』とは?
『マハーバーラタ』は、『ラーマーヤナ』と並んでインドを代表する叙事詩です。
ヒンドゥー教の重要な聖典の1つでもあります。
サンスクリット語で書かれており、全18巻におよぶ長編です。
4世紀~6世紀半ば頃に栄えた王朝、グプタ朝の頃に成立したとされ、著者はヴィヤーサとされます。
題名は「バラタ族の物語」という意味であり、ハスティナープラの都における、パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子による王位継承争いについて書かれています。
その中で登場人物の語りとして、古代インドの経典が差し込まれています。
2. 乳海攪拌の神話~日食・月食の由来~
あるとき神々(デーヴァ)は、不老不死の妙薬「アムリタ(甘露)」を作ることにしました。
ヴィシュヌ神に相談すると、海をかき混ぜてアムリタを作る方法を伝授されました。
まず、海をかき混ぜる棒として、マンダラ山を使うことにしました。
亀の王アクーパーラに棒の支えになってもらい、マンダラ山を海に入れました。
(※ヴィシュヌ自身が、クールマという亀になったという説もあり。)
そして、マンダラ山に竜王ヴァースキを巻き付け、棒を回すためのロープ替わりにしました。
神々だけでは力が足りなかったので、アスラと呼ばれる魔族にも協力してもらいました。
ヴァースキの長い身体を、片方から神々が、もう片方からアスラたちが引っ張り、マンダラ山を回転させて海を攪拌しました。
回転によりマンダラ山は高温となり、海の生き物たちは引き裂かれて、死に絶えます。
やがて攪拌された海は白く濁り、「乳海」と化しました。
神々とアスラたちによる海の攪拌は、1000年にわたって続きました。
とうとう乳海から、さまざまなものが生まれ始めました。
はじめに太陽と月が生まれ、次に女神シュリーが生まれました。
女神シュリーはとても美しく、神々は色めき立ちましたが、ヴィシュヌがすみやかに自分の妻にしてしまいました。
さらに、酒の女神スラー、宝珠カウストゥパ、最後にアムリタが生まれました。
アムリタを得た神々は、アスラたちにアムリタを渡すまいとしました。
最初から、アスラたちにはアムリタを分けるつもりが無かったのです。
アスラたちは神々に襲い掛かりましたが、ヴィシュヌが美女に化けて気を引きます。
その間に、神々は急いでアムリタを飲み干そうとしました。
ところが、「ラーフ」という名のアスラが神に化け、アムリタを受け取り飲みました。
それを見つけた太陽と月がヴィシュヌに警告したため、ヴィシュヌは剣を抜き、ラーフの首を斬り落としました。
しかし、すでにアムリタを飲んでいたラーフは死にません。
首がラーフ、胴体がケートゥという、2つの星になりました。
そして、告げ口をした太陽と月を恨み、日食・月食を起こす存在となったのです。