ブラックホールとは何か?

ブラックホールと聞いて、何もかもを飲み込む怪物のような天体を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

ブラックホールは、その質量によって大きさが決まっています。

光さえ脱出できない「事象の地平面」と呼ばれる境界が、ブラックホールの大きさを示します。

また、ブラックホールに落ち込むと起こる現象や、ブラックホールの寿命について見ていきます。

目次

1. ブラックホールの大きさ(シュヴァルツシルト半径)

2. ブラックホールに落ち込むとどうなるか

3. ブラックホールが蒸発する?

4. まとめ

1. ブラックホールの大きさ(シュヴァルツシルト半径)

ブラックホールは、非常に高密度の天体です。

強い重力によって光さえも落ち込んでしまうため、その構造を視覚的に捉えることは容易ではありません。

宇宙物理学では、ブラックホールの中心には「特異点」と呼ばれる、密度が無限大で体積がゼロの理論上の地点があるとしています。

特異点の周囲には、「事象の地平面」と呼ばれる球状の空間的境界が存在します。

事象の地平面を越えてブラックホールの中心に近づくと、脱出するためには光速を超える速度が必要となります。

この地平面を越えてしまったものは、外の世界からは永遠に観測できなくなるのです。

事象の地平面の大きさは、シュヴァルツシルト半径で表すことができます。

図1に、ブラックホールのイメージを示します。

図1. ブラックホールの理論的イメージ

シュヴァルツシルト半径は、ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルトが1916年に導き出しました。

シュヴァルツシルト半径\(Rs\)を示す式は、以下のようになります。

$$Rs=\frac{2GM}{c^2}$$

\(G\)は万有引力定数、\(M\)が天体の質量、\(c\)が光の速度です。

この式は、質量\(M\)の天体が半径\(Rs\)の大きさ以下であるならば、その天体はブラックホールである、ということを示しています。

太陽と同じ質量のブラックホールであれば、シュヴァルツシルト半径は約3kmです。

地球と同じ質量の場合には、シュヴァルツシルト半径はわずか1cmしかありません。

地球を半径1cmの球に押し込めるほどの高密度でなければ、ブラックホールにはならないのです。

ただし、シュヴァルツシルト半径が適用できるのは、回転しないブラックホールのみです。

回転するブラックホールの場合は、事象の地平面は偏球(赤道面が膨らんだ球体)となります。

2. ブラックホールに落ち込むとどうなるか

それでは、人間がブラックホールに落ち込むとどうなるでしょうか。

事象の地平面は実体があるわけではないので、その境界を越えたところで、当事者にその自覚はありません。

事象の地平面を越えた人間が、外の世界に戻ってくることも、外の人に向かって通信することも不可能です。

しかしそれ以前に、ブラックホールの内部で起こることは、生易しいものではありません。

ブラックホールは中心に近づくほど、強い重力がかかります。

たとえば、足先からブラックホールに落ちた場合、足先にかかる重力と頭にかかる重力の差によって、潮汐力が生じます。

その結果、身体が細長く引き伸ばされ、引き千切られてしまいます。

この現象のことを「スパゲッティ化」と呼びます。

太陽と同じ質量のブラックホールでは、事象の地平面を越える前にスパゲッティ化が起こり、その後あっという間に特異点に達します。

もっと質量の大きなブラックホールであれば事象の地平面を超えることができますが、その直後には同じ現象が待っています。

潮汐力についての記事はこちら。

潮汐力 ~物体を引き伸ばす力~

3. ブラックホールが蒸発する?

ブラックホールは宇宙にありふれた天体です。

ブラックホールは周囲の星々を飲み込んでしまう恐ろしい天体と思いがちです。

しかし、意外にもブラックホールの周囲の恒星は、安定した軌道を保っています。

私たちのいる天の川銀河の中心には、太陽の400万倍もの質量をもつ巨大ブラックホールが存在しています。

これは決して珍しいことではなく、他の銀河の中心にも、同様に巨大ブラックホールが存在するものがあります。

ブラックホールを観測することは、簡単ではありません。

現在観測されているブラックホールは、連星系(2個以上の天体が、両者の重心を軸に回転している系のこと)です。

たとえばブラックホールと恒星が連星である場合、恒星のガスや塵がブラックホールに落ち込み、事象の地平面のまわりに円盤を形成します。

この円盤のことを「降着円盤」といいます。

降着円盤を形成する塵やガスから電磁波が放射されたり、高エネルギーの粒子ジェットが放出されたりすることで、ブラックホールの観測が可能になります。

それでは、連星系ではない単体のブラックホールは、何も放出しないのでしょうか。

1974年、イギリスの理論物理学者スティーヴン・ホーキングにより、ブラックホールが粒子を放射することが示されました。

ホーキング放射と呼ばれる現象です。

この現象を説明するには、量子ゆらぎ(ハイゼンベルグの不確定性原理による)のために、事象の地平面のすぐ外側で、粒子-反粒子ペアの仮想粒子が生まれると考えます。

ペアのうち片方の粒子が、事象の地平面を越えてブラックホールに落ち込むと想定します。

このとき、ブラックホールに落ち込む粒子が失うエネルギーが、ペアの静止エネルギーを上回った場合、残されたもう片方の粒子は正のエネルギーをもち、はるか遠くへ飛び去ることができます。

こうして持ち去られたエネルギーにより、ブラックホールは徐々に蒸発し、やがては消滅するとされています。

ブラックホールの質量が小さいほど、ブラックホールの寿命は短くなります。

仮想粒子についての記事はこちら。

粒子と反粒子の世界 ~宇宙を形作るもの~

4. まとめ

ブラックホールは、シュヴァルツシルト半径に相当する「事象の地平面」を持っています。

事象の地平面を越えたものは、外の世界に戻ってくることはありません。

人間が事象の地平面に近づけば、身体が引き千切られ、特異点(ブラックホールの中心)に押し込められてしまいます。

そんな恐ろしいブラックホールですが、決して永遠のものではありません。

エネルギーを失うことで蒸発し、やがては寿命を迎えます。